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書評:サウスバウンド ~世間の常識が正解とは限らない?

サウスバウンド

コミカルな中にも、社会への批判が描かれて感動させられる小説。

また、小学生の心情も的確に描いた青春小説であり、少し変わった家族を描く家族小説の要素もある。ページ数は多いが、引き込まれ、どんどん読めた。

青春小説や家族小説が好きな方にはぜひおススメ。

 

主人公は小学生の二郎。

一見ごく普通のどこにでもいる子供だが、父親は元過激派で無政府主義者

学校や警察、税務署とは対立し、社会のはみ出し者として騒ぎを起こす。

主人公の母親も常識人ではあるが、なにやら隠された過去がある様子。

そんな家族が巻き起こす騒動を、小学生である主人公の目線から描いた小説。

 

父親は、その信条から国家権力に対して常に敵対的な発言をする。

例えば、学校については、国家の都合の良い人材を育成する機関のように感じているし、お金持ちをブルジョアジーと言い、労働者階級との対比を言い募る共産主義的発言もする。

 

そんな父を持つ二郎だが、彼自身はいたって普通の感覚を持っており、父親が一般的な人間とは違う思想を持っていることを認識しており、反発もしつつ、一方で変わった人間として受け入れてもいる。

 

この小説の魅力は、変人としての主人公の父親をコミカルに描きつつ、一方で我々が日常感じている生きづらさや社会の矛盾を的確に指摘している痛快さであると個人的には感じた。

一例をあげると、「欲をかかなければお金等は無くても生きていける、原始の社会はそのような社会だった」という思想を主人公の父親が持っている。これは、一般的な感覚からすると理想に過ぎる思想のように感じるが、一方でお金を稼ぐことが社会的地位の確保につながる現代社会に矛盾や不満・不安を感じることは我々にもある。

極端な思想の持ち主で、おおげさな解釈をしてはいるものの、その思想には一理あると言わざるを得ない。そのため、その思想を元に大胆に行動を起こす登場人物は、滑稽を感じるものの馬鹿にはできない存在である。

 

上記、文章にしてみると堅苦しいが、これをコミカルかつ感覚的にとらえられるように小説に仕立て上げられている。

笑いながら、しかし、少し立ち止まって考えさせられるところもある、というのは傑作小説の証ではないか、と思う。