アラフォーの本棚

40前後の中年の読書記録を公開。

書評:MBA バリュエーション ~M&A実務から資本主義について考える

MBA バリュエーション

M&Aの際に用いる企業価値算定(バリュエーション)の教科書。企業価値の算定がどのような要素から行われるか、また、どのような過程で価値が確定していくか、が実務にも使えるレベルで記載されている。ただ、それにとどまらず、M&Aが果たす社会的役割や、さらにそこから発展して資本主義の功罪まで言及されている。

 

バリュエーションをどのように行うか、という実務の点については、教科書的なものなので、ここでは詳細は省くが、つまるところ企業価値は、将来キャッシュとターミナルバリューの現在価値である、という理解で進められている。

 

バリュエーションの教科書であるが、それにとどまらない魅力はM&Aというものを通して、資本主義とはどのようなものなのか、に言及されているところである。

 

資本主義というものの大筋の理解は、資本を元手に事業を行い、稼ぐことでさらに資本を増やし、さらにそれを元手に事業を行い…という繰り返しの中で、富を蓄積するという考え、ということで外れてはいないと思う。M&Aとは企業に値段をつけ、企業を買い取ることのため、その意味では、資本主義あっての概念である。そのM&Aを通して、資本主義を観察することで、本書では資本主義の功罪をある程度明らかにしている。

 

本書の中で、日本についての言及もある。日本はもちろん資本主義の国であるが、非効率な経営を行っている会社がいまだに存在しており、日本は本来の資本主義ではない、という主張はなるほど、と思わせる面もあった。徹底した資本主義国であるアメリカでは、非効率な経営は株主を満足させられず、買収対象になるためである。

 

ただし、著者は資本主義を徹底することがすべて正しいわけではなく、日本には日本の良さがある、との主張をしている。ただ、日本独自の良さも、諸外国の行動原理を理解しないままでは、十分に発揮することができない。

 

このようなことを考えさせてくれる本書は、前述の通り教科書にはとどまらない、教養書である。